「ふぁ~あ。よく寝た。仕事に行くか。」

今日の仕事は金持ちの屋敷の家具の入れ替えだ。簡単な仕事だが、少しでも傷をつけると減給どころか損害賠償になってしまう。それさえなければ簡単なわけだ。細心の注意を払わなければ。

「おい!お前ら!家具や壁なんかに傷つけんじゃねーぞ!」

「わかりました!」

とてつもなく大きな屋敷だった。庭には色とりどりの花が咲き、豪華な噴水があり、中世ヨーロッパの作りだった。なんでもフッ化水素を作る会社の社長の自宅らしい。ここの屋敷の所有者は日本人だが、やはり利権の関係で日本人でも相当幅をきかせているらしい。

暑い中、忙しく機敏に作業をこなさなければならない。私どものような労働者は安い賃金の割に高いクオリティを求められる。

そして昼休憩。私はあまり群れるのが嫌いだったからお屋敷の木下でポツンとおにぎりを食べていた。すると。

「あなた目が茶色いのね。その色なら髪の色を明るくすると似合うわよ。」

と若い屋敷の娘さんが声をかけてきた。薄茶色に染めた長い髪をしていた。気品があふれ、いかにも育ちがいいのが分かる。身長は160㎝ぐらいだろうか?顔立ちも綺麗だ。

「あ、私の目は茶色かな?母の目が茶色だったから遺伝かもしれないですね。」

と私が返すと

「あなた鏡も見たことないの?普通なら目の色ぐらいは気付くでしょ?」

「はあ、確かにこの日本が分断される前まではこの目の色よりツートーン明るい色に髪の毛を染めていましたよ。」

「やっぱりそうでしょ?私もそれが似合うと思うの!あなた私の屋敷のボーイにならない?そうしたらあなたをプロデュースしてあげる!それと給料も高いわよ!どう?」

「それはお嬢様が決めてくれるなら私はそれで構いません。そこにいる親方に話をしてきてもらえませんか?」

「そうなの?ところであなたお名前は?私は山城詩織。」

「私は秦野駿一です。」

「それでは親方さんに話をつけてきますね!」

何が何だか。若い娘の考えることは良く分からない。まあ、これで楽なしごとに就けるなら万々歳か。

「さ、あなたを10万jenで買ってきましたよ!今からスーツと美容院に行きましょう!」

「10万jen?さては吹っ掛けたな...」

「何かおっしゃいましたか?」

「いえ、何も」

「それでしたら向かいましょう!」

「それより旦那様や奥様のご了解は得たのですか?」

「あーー、そんなの無視無視。さー行こう!」

「スポイルドガールってやつか。」

「何か言いましたか?」

「いえ、何も。」

「それでしたら行きましょう!まずは仕立て屋ね。」

「ところでお嬢様、何で私のようなものをボーイに?私は見ての通りデブですよ?」

「なんて言えばいいんでしょうか?なんとなく興味深さがあなたにはあったのですよ。」

「興味深さ?」

「それを聞かれると困るのですが、占いとかでいういわゆるオーラみたいなものかしら?」

「なるほど。」

「あなた車の運転はできます?できるならあなたの運転で行こうと思ったのですが。」

「一応この有事の前までは車を持っていましたよ。」

「そうですか。それなら運転をお任せます。」

「わかりました。」

そこに用意された車は中国製の電気自動車のセダンだった。格好は良いが、中身のほうはどうなのかと考えると怖いものがある。やっぱりmade in chinaっていう怖さが未だにある。

しばらく運転をして商業街に出た。またしばらく。

「あそこのお店です。あの仕立て屋が私たちの行きつけです。本来なら来てもらうんですけど、今回は急用だったから。それじゃあ、あの横まで車を停めて。お店の人に車を回してもらうわ。」

「わかりました。」

そういって車から降り、仕立て屋に入って行った。

「マスター、今日からこの方がボーイになるの。お洋服、仕立ててもらえないかしら?」

「ああ、山城のお嬢様。お安い御用です。車の方は回しておきますね。」

と仕立て屋のマスターが言った。年は60を超えるぐらいのアインシュタインに似たような髪型だった。

「ありがとうございます。」

「まあ、この方はふくよかな方ですね。仕立てがいがあるものですよ。寸法取りますのでしばらくお付き合い願います。」

しばらくして

「ふー。なんだか緊張したな。こんなオーダーメイドの服を作るなんて初めてだ。」

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。これからが仕事なんだから。ふふ。」

あどけない微笑みが緊張をほぐしてくれた。

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