「さて、採寸は取れました。生地はどうなさいます?形や柄などは?」
とマスターが。
「生地はなんとなくぼかしが入った感じで、マオカラースーツにしてくださる?色は...そうね?アッシュグレイで。」
「わかりました。お嬢様。」
「さて、秦野さん、美容院に行きますよ!」
「はい、お嬢様。」
「お嬢様はやめて。詩織でいいわよ。」
「ですが、このご時世ですから、名前で呼ぶのは...。」
「いいの。私が許します。詩織と呼んでください。では私は...しゅんちゃんとあなたを呼ぶわね。」
「あ、ああ。構いませんよ。でもせめて詩織さんと呼ばせてください。」
「ええ、分かりました。」
正直少し恥ずかしかった。この名前で呼ばれるのは大学時代までだったから。むずがゆい感じがする。しかしこの流れだとこのお嬢さんは私に好意を抱いている、もしくは抱きかけてるかどちらかだが、確かな根拠はないが長年の勘だ。なんにしろお嬢様育ちの娘というのは厄介だな。気分次第で右と左を変えてくる。私は流れに沿って生きていく処世術は身に着けているつもりだが、女の流れは細く激流だ。突如として川は氾濫し、水が溢れ出す。女性関係が上手くいくのは私が考えるには恐らく、肉体関係が相性がいい場合だろうと思っている。だからそこにたどり着くまでが至難なのだ。特にこの手のお嬢様は騙すのは簡単だろうが、その演技を一生続けていくのか?と考えるとゲロが出そうになる。まあ、今はそれを考えることではない。当面の間、楽をして稼ぐことを考えよう。
そんなことを考えながら美容院でのカット&カラーが終わり、
「やっぱり髪の色変えたら目は茶色ね!明るくしてよかったわ!今日はもう仕事はこれでいいわ!仕事なのかしら?まぁ、今日のお給金。はい。」
と彼女は2万jen渡してきた。
「どうもありがとうございます。」
私は遠慮もすることなく頂いた。そこに変な感情を入れると変なことになってしまうからである。あくまで無機質。それに尽きる。そうしたらお嬢さんが
「あなたどんな所に住んでるの?良かったら私の父が経営してるマンションにでも入らない?無論、料金はタダよ?」
「いえ、私は今の家が気に入っているので。ご厚意だけでも貰っておきます。」
「そう。それなら今日はありがとう。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
そういって私はあの冷房もない無機質な部屋へと帰るのであった。どれだけいい物件でも、私の虚無を受け入れてくれる物件でなければ意味がないのだ。独りよがりだが、それでも私は私でありたい。切にそう思う。
伴場に新しい仕事の事を伝えようかと思ったが、女がらみのことだから伴場はその仕事を嫉妬しかねないからやめとこう。だけど飲みには行こう。俺がおごってやろうかな。そう思って伴場に電話をして居酒屋で待ち合わせした。なんだか街がいつもより賑わっている気がした。
「よう、秦野。お前から飲みに誘うのも珍しいな。なんかいいことでもあったのか?」
「いや、スロットで勝ったからおごってやろうかと思って。」
「そうなのか?でも今日は割り勘でいいぜ!なんにせよ中国軍がどうやら動くみたいで軍事工場がフル稼働しだした。そのおかげで俺たちの給料が倍になった。同じ日本人が苦しむのをみたくはないがな。」
「軍事特需か。日本はつくづく軍事特需で成り立ってる国だな。昔からそうだ。」
「まぁ、暗い話はやめよう。飲もうぜ!青島ビール一つ!」
「あ、俺も!もう一つ!」
どうりで街がいつもより賑わっているわけだ。

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